小野塚研究室


電子顕微鏡観察、回折実験による結晶構造・格子欠陥に関する研究

概要

 当研究室では、電子顕微鏡観察、回折実験などにより、新素材・材料中の格子欠陥や結晶構造に関する研究を行っています(格子欠陥は材料特性に影響を与える)。以下に主な研究テーマの概要を示します。

1.Bi2Sr(Ca1 - xPrx)Cu2O8 + d の変調構造

 上記の酸化物は超伝導転移温度 83 K を持つ物質で、その結晶構造の詳細は明らかにされていない。ここでは、上記酸化物を、原子像を直接観察できる高分解能電子顕微鏡、電子線回折により調べた。試料は、固相反応(注1)させた焼結体より取出した極めて小さく(直径約 50 nm)薄い (厚さ約 50 nm) 微結晶である。
 その結果、以下のことが明らかとなった。
1)この変調構造は不整合変調構造として解析されていたが、高分解能電子顕微鏡観察の結果、変調の周期の非常に長い整合変調構造である。
2)電子線回折より得られた変調周期(変調の周期とは異なる)は、組成のバラツキ(注1)に対応した広がりを持つが、ある値のところに集団を作りながら、x の増加とともに直線的に 9.5 から 8.5 に減少する(図1)。
3) 2)の結果は「悪魔の階段」として知られる理論から再現できる(図1)。

注1) 固相反応法で作製された焼結体を構成する微結晶の組成間には僅かばかりの違い(バラツキ)が不可避的に生じる。一配合組成焼結体中の組成のバラツキは置換濃度 x に換算すると ± 0.1 程度である。このため、変調周期は一配合組成当たり20個が測定された(図1)。


図1.置換濃度 x に対する変調周期の測定値(●)。
測定値を横切る実(水平)線は「悪魔の階段」。

2.鉄鋼 SUS 304 の引張加工度とマルテンサイト生成量

 ステンレス鋼SUS 304 は耐食性や機械的性質に優れており多くの製品に使用されているが、“時期割れ”と云う問題がる。γ(f c c) 単相であるSUS 304 を加工すると γ相の一部がα(b c c ) 相に加工誘起変態し、α相生成量は加工度とともに多くなることは既に知られている。そして、このα相(マルテンサイト相とも云う)の存在はSUS 304 の加工製品の時期割れの原因の一つとされている。
 マルテンサイト生成量は走査型電子顕微鏡で調べた。実験結果を図2に示した。加工度とともにその生成量が多くなる、また、同じ加工度でも歪速度が大きくなるとその生成量も多くなることが読み取れる。

図2.引張り加工度に対するマルテンサイト生成量。