Al-Li合金の疲労き裂伝播挙動

綾塔直也

 Alに金属元素中最小密度を有するLiを添加したAl-Li合金は、次世代材料として非常に期待されている合金である。これはLiを添加することにより、既存のアルミニウム合金と比較して強度、耐疲労性、靭性、剛性等が大幅に向上するためであり、中でも航空・宇宙産業や核融合炉壁として注目されている。この合金に関しては、以前いくつかの実用例が報告されていたが、性能がコストに見合わない点や疲労強度特性が劣っていることから現在ではほとんど使用されていない。性能にコストが見合う分野においても実用化には至っていない。このような優れた材料を使用しないのは社会の損失につながると考えられることから、一刻も早い性質の改善が望まれていた。
 しかしここ数年間の間に、性能改善を図ったAl-Li合金が出てきていることから再び注目されている。先の述べた用途の分野では多くの基礎データを必要とし、その中でも特にき裂伝播特性が重要である。しかしこの分野においては基礎データが足りず、疲労強度に関する研究が十分なされているとはいえない。よって、本研究では、近年新しく開発された2195T-3Al-Li合金を供試材とし、Al-Li合金の疲労き裂伝播挙動の解明を目指し、2種類の疲労き裂伝播試験、モードTと混合モード(モードT+モードU)を実施した。
 本論分は、全4章からなっており、以下に各章の概略を示す。第1章では、本研究を行うにあたり、Al-Li合金に関する研究の歴史及び破壊力学概念等の背景を調査し、本研究の目的と異議について述べた。第2章では、本合金の引張試験を行い、機械的特性を明らかにするとともに、CT試験片を用いたモードT負荷条件下での疲労試験を実施し、亀裂伝播速度と応力拡大係数範囲との関係を求めた。さらにリング試験片についてもモードT試験を実施し、リング試験片の有効性についても検討を行った。第3章では、リング試験片を用いた混合モードのき裂伝播速度を求め、モードTより得られたデータを基にモードUのデータを評価できるかどうか試みた。評価は既存のRichardとTanakaの式からΔKmixを算出し検討を行った。第4章では、各章にて得られた結果をまとめ、本論文の結論とした。
 得られた結論を要約すると、2195T-3Al-Li合金について引張試験を行った結果、従来のAl合金やAl-Li合金と比較して、強度面において大幅に向上してることを確認した。またCT試験片とリング試験片を用いた疲労き裂伝播試験より、疲労き裂伝播速度と応力拡大係数範囲の関係を求めた。なおリング試験片を用いて行ったモードT疲労き裂伝播試験の結果は、CT試験片での結果とΔK一定とみなせる範囲にて一致した。従って、リング試験片はCT試験片を用いた疲労き裂伝播試験と同じ結果を得られることがわかり、リング試験片は疲労き裂伝播試験に対して有効な手段であることを確認した。さらにリング試験片を用いた混合モード疲労き裂伝播試験より、モードTのデータのみで混合モードを評価できるかどうかを試みた結果、2つのモードの間に一致はみられなかった。