杵淵稔夫
ガスタービン翼には遮熱コーティング(TBC)の適用は必要不可欠となっている.しかし,皮膜の割れやはく離が基本的問題としてつきまとい,遮熱コーティング翼の寿命・余寿命管理に関する基礎的な研究が切望されている.一方,遮熱コーティングは近年発達した溶射技術により施工されるが,そのプロセスパラメータの選択は技術者の経験に頼っているのが現状であり,工学的に施工プロセスの最適化を目指した研究はほとんど無い.
そこで本研究では,遮熱コーティング皮膜単体の機械的特性に及ばす溶射プロセスパラメータと高温暴露による影響を調査するため,プロセスパラメータおよび高温暴露条件を変数として試験片を準備し,4点曲げ試験を行った.併せて,TBC皮膜単体の機械的特性と皮膜組織の関係も調査した.その上で,TBCの界面密着強度におよぼすボンドコート施工プロセスパラメータと長時間高温暴露の影響を調査し,その断面組織解析と有限要素法による熱応力解析を行い界面密着強度との関係を調査・検討した.
そして,以下の結論を得た.
(1) 遮熱コーティング皮膜は高温暴露により焼結するとともに,空孔の面積率は減少した.特にスプラット間の細い空孔の空孔率の減少は顕著であった.
(2) 皮膜のヤング率と空孔率の関係を詳細に検討した結果,スプラット間の細い空孔の空孔率が減少すると,それに伴って皮膜のヤング率が上昇するといった良い相関関係が認められた.
(3) 遮熱コーティング皮膜の特性は,溶射プロセスと高温暴露により変化し,その変化とともに皮膜組織の空孔率も変化した.このことから,溶射プロセスを変化させて皮膜内の空孔率を制御することにより任意の皮膜特性を得ることができる可能性を提唱した.
(4) 負荷・除荷・再負荷曲線から求まったヤング率は,初期負荷曲線得られたヤング率に比べ,除荷曲線から得られたヤング率の値は2倍程度,再負荷曲線から得られた値も5割程度高い値を示した.このことから,除荷コンプライアンス法やインデンテーション法で遮熱コーティングの弾性率を評価すると,見かけ上高い値を示すことが考えられ,遮熱コーティング特有のこの挙動を考慮する必要があることを明らかにした.
(5) 1000℃で2000h,3000hの高温暴露による界面強度の低下や,外的負荷なしでのはく離の発生は,高温暴露によるTC内のmicro cracksの発生と,き裂がmicro cracks同士とTGOを連結しながら伝ぱすることに関連していた.
(6) TGOの厚さは各溶射プロセスパラメータや高温暴露の条件によって変化するものの,低酸素分圧雰囲気下で高温暴露を施した試験片では緻密で連続的なalumina層のみを,大気中で高温暴露を施した全ての試験片では連続的なalumina層とこぶ状の混合酸化物を形成した.
(7) 界面密着強度への界面粗さの影響は小さく,高温暴露による熱生成酸化物の生成と成長が大きな因子と考えられる.そして,FEM解析から得られた面外方向の熱応力と熱生成酸化物,界面粗さの関係は,界面密着強度試験の結果を良好に説明できた.このことから,界面強度への影響度は,こぶ状酸化物>alumina層>界面粗さの順で大きく,位置や大きさに関わらず,ある程度の大きさのこぶ状酸化物が発生すると熱応力分布は大きく変化し,界面強度を低下させる要因となった.
(8) 真空雰囲気下での高温暴露前処理を行うことによって,界面強度に対して影響を及ぼすこぶ状の混合酸化物の生成を抑制することができた.これは,界面強度の向上と寿命延伸に効果的と思われる.