大滝秀治
長期間に渡る安全性が要求される構造物においては構成要素の疲労特性が重要な位置を占める場合が多い。特に厳しく要求される構造物でも引張り圧縮疲労(モードT)107回までのデータしか求められていないのが現状である。長期安定性のためには超長寿命(107回以上)と、モードT疲労以外のモードU・モードV疲労データによる検討が必要であり、近年その必要性が認識されてきている。
これまでモードU・モードV変動負荷に対する構造物の設計は、疲労を考慮する場合でも、既存のモードT疲労強度に依存し、過大な安全係数を用いて対処してきた。しかしモードV変動負荷に対してモードT疲労強度は参考値の域をでることはできず、モードU・モードV疲労データをモードTのそれで代替出来る根拠は乏しい。また、大きな安全係数を採れないような厳しい要求に対してはモードU・モードV疲労データによって対処しなければならず、モードV疲労挙動の解明が必要と言える。
本研究は、金属材料のモードU、モードV疲労挙動の解明を目的としている。モードV疲労試験の在来の障害は指導教官の考案した偏心ねじり試験片を用いることにより対処し、計測システムの確立を計り、ねじりによるモードUモードV疲労試験の汎用化を目指すものである。
供試材として一般構造用炭素鋼SS400、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304、厚肉鋳鉄を用いた。
研究の結果、次のことを示した。
1) モードU、モードV疲労き裂はモードT疲労き裂同様、PSBや表面もしくはその近傍の欠陥からき裂が発生する。また、SS400においてPSBは試験片を貫通しており、き裂は終始それにそって進展していた。
2) モードV疲労き裂はその形状から深部にまで達していることが確認できた。
3) SS400、厚肉鋳鉄に関してはモードU、モードV疲労寿命を得ることが出来た。モードTとモードUを比較した場合、τ=σ/2で換算した場合、モードT疲労強度からの設計は疲労寿命において妥当であることがわかった。
4) SS400においてはモードU・モードVき裂の進展速度が得られた。
5) モードT疲労き裂進展速度からのモードU・モードVき裂進展速度の評価について検討した。SS400U対しては、モードTき裂進展速度のKT値を1.7で割ることによりモードU疲労き裂進展速度、1.8で割ることによりモードV疲労き裂進展速度の推定が可能であることを示した。また、この係数の材料依存性については更なる検討が必要である。
6) 本研究より得られたモードU、モードV疲労データは希少なため、貴重な結果が得られたといえる。